監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士
相続に関する手続の中には、一定の期限があるものが存在します。期限がある場合、期限内に手続をしないと、一定の法律効果が得られないことや、ペナルティが課されることがあります。
本稿では、相続手続の期限について解説します。
目次
相続手続きの期限について
期限のある手続き | ・相続の承認、限定承認、放棄(民法915条1項本文 ※伸長可。同但書) ※相続の承認及び放棄の取消し(民法919条3項) ※財産分離(民法941条1項) ・遺留分侵害額の請求(民法1048条) ※相続分の譲渡を受けた第三者に対する価額償還請求(民法905条2項) ※相続回復請求権の行使(民法884条) ・準確定申告 ・相続税の申告、納税 ・相続税の還付請求 ・生命保険金の請求 |
---|---|
期限のない手続き | ・遺産分割 ※相続分の譲渡(民法905条)、相続分の放棄(「相続放棄」ではないことに注意) |
相続放棄は3ヶ月以内に手続きが必要
相続に関する手続の中で、期限に注意しなければならないものとして、相続放棄があります。相続放棄とは、相続の効力を確定的に消滅させることを目的とする意思表示をいいます。
相続放棄は、家庭裁判所に申述することにより行います。相続放棄の効力が生じると、相続放棄をした者は、相続人としての地位を失い、資産も負債も承継しないこととなります。
相続放棄は、『自己のために相続の開始があったことを知った時』から3か月以内(熟慮期間といいます。)に、家庭裁判所での手続をしなければなりません。この期間に間に合わないと、原則として、相続放棄が認められません。
ただし、熟慮期間は家庭裁判所に申し立てることで、延長することもできます(民法915条1項但書)。また、熟慮期間を過ぎた後、予想できないほどの多額の負債が見つかった場合等、例外的な場合には、熟慮期間を過ぎていても相続放棄が認められることもあります。
このように、熟慮期間を過ぎていても、相続放棄が認められることもありますので、特に、後々、多額の負債が判明したような場合には、必ず弁護士に相談してください。
準確定申告は4ヶ月以内
準確定申告とは、年の途中で死亡した者の相続人(包括受遺者を含みます。)が、被相続人が死亡した年の1月1日から死亡した日までに確定した所得金額及び税額を計算して、申告と納税をすることです。
準確定申告は、申告者(相続人及び包括受遺者)が、相続の開始があったことを知った日から4か月以内にする必要があります。
なお、期限内に申告できなかった場合のペナルティとして、延滞税及び無申告加算税があります。ただし、申告できなくなるわけではありませんので、準確定申告が必要な場合には、必ず申告するようにしましょう。
相続税の申告・納税期限は10か月以内
相続税の申告及び納税は、相続人が、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行うことになっています。
問題となるのは、上記申告期限までに、遺産分割が完了していないことが多いことです。このような場合、まず法定相続分で申告・納税し、遺産分割後に更正の請求(税額が減少する場合)又は修正申告(税額が増加する場合)により対応することになります。
また、相続税には、以下のような各種の特例があります。期限内に申告することはもちろん、これら特例を適切に利用するため、相続税の申告については、税理士に依頼することがベターです。
- 非課税控除(死亡保険金、死亡退職金等)
- 小規模宅地等の特例
- 中小企業の株式の相続税の納税猶予
- 農地の相続税の納税猶予
- 配偶者、未成年者、障害者、数次相続の税額控除
土地建物の遺産相続登記の期限
令和4年6月時点で効力を有する法律では、不動産(土地、建物)の相続登記に期限は設けられていません。もっとも、早期に手続を行うことが望ましいといえます。特に、相続人間に争いがなく、遺産分割が、相続税の申告期限までに完了しそうな場合には、相続登記の必要書類(印鑑証明書等)は、相続税の申告のための必要書類と重複するものもあるため、手続をまとめて行った方が、時間が節約できます。
なお、令和3年の法改正(民法等の一部を改正する法律(令和3年4月28日法律第24号))により、相続登記の申請が義務化されることになりました。具体的には、所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、その相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に、相続登記の申請をしなければならないとされています(相続登記の義務化。改正後の不動産登記法76条の2。遺贈により所有権を取得した者も同様。)。この法改正は、令和6年(2024年)4月1日から施行されますので、注意するようにしましょう。
遺留分減殺請求、遺留分侵害額請求の期限は1年以内
遺留分とは、被相続人の財産の中で、法律上その取得が一定の相続人に留保されていて、被相続人による自由な処分(遺贈、贈与等)に対して制限が加えられている持分的利益をいいます。要するに、「遺留分だけは相続人に渡しなさい」という法律になっているということです。
遺留分に関する権利は、以前は、「遺留分減殺請求権」というものでしたが、平成30年のいわゆる相続法改正(民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号))により、「遺留分侵害額請求権」に変わりました。名称だけでなく、権利の性質も変わり、「遺留分侵害額請求権」は、単純な金銭債権とされています。令和元年(2019年)7月1日以後発生した相続については、遺留分侵害額請求権を行使することとなります。
そして、遺留分侵害額請求権は、改正前の遺留分減殺請求と同様、『遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間』の消滅時効、『相続開始の時から十年』の除斥期間の制限があります。遺言書があり、遺留分を侵害するような相続の場合には、速やかに、遺留分侵害額請求を行使するようにしましょう。
生命保険金は3年以内に請求
保険金請求権は、保険金の支払事由が発生したときから3年で時効にかかります。この消滅時効期間は、保険法95条1項で定められているもので、民法上の消滅時効期間(5年)の例外となっています。もっとも、保険金を請求できなかった事情次第では、保険会社が、保険金支払いに対応してくれることもあります。時効期間が過ぎていてもあきらめずに、保険会社に確認してみましょう。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
遺産分割協議は10年経過していても行うことができる
令和4年6月時点で効力を有する法律では、遺産分割に期間制限はありません。
しかし、遺産分割を行う際に、必要となる各種資料(特別受益を立証する場合の取引履歴等)には、保存期間があるのが通常です。遺産分割をせずに、相続開始から時間が経てば経つほど、各種の立証が困難となります。遺産分割協議は、早く始めるに越したことはありません。
なお、、令和3年の法改正(民法等の一部を改正する法律(令和3年4月28日法律第24号))により、具体的相続分(特別受益や寄与分を考慮した相続分)による遺産分割は、原則として、相続開始後10年を経過した後、することができない、との制限が設けられることとなりました(改正後の民法904条の3)。この法改正は、令和5年(2023年)4月1日から施行されます。前述の相続登記の期間制限と合わせて、注意が必要です。
遺産分割のやり直し期限
遺産分割は、原則としてやり直しができません。ただし、当事者全員の合意がある場合には、遺産分割を合意解除して、再度の遺産分割をすることは可能です。合意解除の場合には、原則として、期間制限はありません。遺産分割がやり直し(合意解除)になる例として代表的なのは、未分割の遺産が発見されたような場合です。
また、遺産分割にあたり、錯誤、詐欺、強迫等の意思表示に瑕疵があれば、取消しを主張することも可能です。この場合、取消権の消滅時効の制限(追認することができるときから5年。民法126条)があります。
相続手続の期限について詳しくは弁護士にご相談ください
相続手続の中で、期限があるものの中には、複雑な法的判断が必要なものがあります。
また、法改正により、今後、ますます、短期間での適切な意思決定が求められるといえます。相続があったときは、早めに、弁護士、税理士などの専門家に相談するとよいでしょう。
-
保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)