監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士
「財産を持っていた人が亡くなった時には相続が発生する」というのは、殆どの方が御存知だと思います。その意味で、相続に関する知識が0の方は珍しいのではないかと思います。しかし、実際に相続問題に直面した時、何をどうやって決めたらいいのかまで具体的にご存知の方はそう多くは無いと思います。
本ページでは誤解を恐れずに遺産分割協議とはどういう物なのかを簡単に説明していきたいと思います。
目次
遺産分割協議とは
遺産分割協議とは、被相続人(亡くなった人)が死亡時に有していた財産について、個々の相続財産の権利者を確定させる手続のことをいいます。要は個々の財産を誰が(相続人の範囲)、何を(遺産の範囲)、どのような割合で(相続分)、どのように分ける(分割方法)か等を決めるための手続です。
遺産分割協議の注意点
遺産分割協議のやり直しは原則不可
遺産分割協議に限った話ではありませんが、一度合意に至った場合、「騙された」「脅された」「無理矢理サインさせられた」等の事情が無い限り合意を覆すことは困難です。とりあえず・なんとなくで合意してしまうのは控えた方がいいでしょう。
全員の合意がなければ成立しない
原則、共同相続人は遺産分割協議の当事者となります。また、包括受遺者(民法990条)や相続分の譲受人も遺産分割の当事者となります。全ての当事者を手続に加えなければ公平な分割協議はできません。当事者の一部の者を除外して合意に至ったとしても、原則その合意は無効になると考えられます。
相続人に未成年がいる場合
未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければなりません(民法5条1項前段)。したがって、共同相続人に未成年者がいる場合には、法定代理人である親権者又は未成年後見人が遺産分割協議を行うことになります。
ただし、法定代理人と未成年者が共に共同相続人である場合には、利益相反関係(一方の当事者が利益を得ることで、もう一方の当事者の利益を害するような関係)にありますので、特別代理人の選任が必要です(民法826条)。
相続人に認知症の人がいる場合
遺産分割協議を行うには、少なくとも意思能力(自分のしていることの意味がわかる程度の能力)が必要とされています(民法3条の2参照)。認知症が進行して事理弁識能力を欠く常況にある場合には、成年後見制度を利用して後見人を選任する必要が生じます。なお、親族が後見人に選任されるとは限りません。また、親族が選任されたとしても、選任された親族が共同相続人の場合には、利益相反関係にありますので、特別代理人の選任が必要です。
遺産分割協議でよく揉めるケース
土地や不動産がある場合
不動産には高い価値があり、相続財産に対して大きな割合を占めていることが多いため紛争の中心になることが多い印象です。特に不動産の価値をいくらとするのか(評価方法)や、共同相続人の一部の者が相続財産の不動産を利用している場合には、どうやって分割していくか(分割方法)等で紛争化するケースがよく見られます。
家業がある場合
株式も相続の対象になります。株式が共同相続された場合、相続人間で誰が会社を継ぐかを巡って争いが生じることがままあります。なお、相続された株式は、遺産分割が完了するまでの間共同相続人の準共有状態にあると解されておりますので、円滑な会社運営のためにも特に速やかな解決を要する問題です。
相続人以外が参加した場合
遺産分割で得られる金額が大きくなればなるほど相続人やその家族の生活に大きく影響を与えることが予想されます。それもあってか、実際には相続人でない相続人の配偶者や、世話焼きの知人、自称相続に詳しい人等が口を挟んでくることで余計に紛争が複雑になることがあります。特に配偶者以外の方は無責任なアドバイスだけを残していくことがあるので、話を聞くにも慎重になるべきでしょう。
遺産の分割方法
誰が・何を・どの割合で相続するかが決まれば、最後に各当事者の意向に沿ってそれぞれの遺産の分け方を決めていきます。次に説明するとおり、具体的な分割方法には現物分割、代償分割、換価分割、共有分割の4種類が考えられます。
現物分割
現物分割とは、個々の遺産の形状・性質を変更することなく分割する方法です。遺産分割はできる限り現物を相続人が引き継ぐのが原則ですので、一番オーソドックスな分割方法です。例えば、不動産や貴金属等をそのままの形で相続する方法です。
代償分割
代償分割とは、一部の相続人が相続分を越える額の遺産を取得した上で、他の相続人に対する債務を負担する方法です。現物分割が不可能な場合、現物分割をすると遺産の価値が著しく低下する場合、特定の相続人の利用状態を保護する必要がある場合等にはこの方法が検討されるべきでしょう。例えば、遺産の大部分を不動産が占めており、かつ、共同相続人の一人が当の不動産の引き取りを希望している場合等に利用されることが多い印象です。ただし、相続分を越えた分は他の相続人に対して債務を負担することになりますので、支払能力についても検討が必要です。
換価分割
換価分割とは、遺産を売却等で換金した後に、金銭を分配する方法です。現物分割が困難な場合、代償分割の代償金が用意できない場合、不動産・動産の引き取りを希望する者がいない場合等に利用されることが多い印象です。
共有分割
共有分割とは、遺産の一部又は全部を具体的相続分に応じて共有する方法です。現物分割・代償分割・換価分割が困難な状況にある場合(大阪高決平成14年6月5日)又は当事者が共有分割を希望する場合に利用されることがあるようです。しかし、法的には持分を得たとしても、紛争の根本的な解決にはならないことが多く、実務上共有分割が行われることはめったにないという印象です。
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遺産分割協議に期限はある?
遺産分割協議に期限はありません。
遺産分割協議をしないで放っておいたらどうなる?
時間が経てば遺産の全容を把握するのも困難になったり、一部の相続人が遺産を使ってしまったために、遺産分割協議を行った時には何も残っていないということにもなりかねません。また、遺産分割の対象となる財産については遺産分割協議が整う迄は共同相続人全員の共有状態となりますので、例えば不動産の売却や預金の解約等を自由に行うことができません。
遺産分割協議が無効になるケース
当事者の意思が遺産分割に反映されていない場合や、そもそも判断する能力が無い人がした遺産分割協議は無効になると考えられます。上でも述べましたが、例えば「騙された」「脅された」「無理矢理サインさせられた」等の事情があれば協議は無効になると考えられます。また、未成年者や認知症患者(意思無能力者)による遺産分割協議も無効になると考えられます。
遺産分割協議のやり直しが必要になるケース
遺産分割後に新たな相続財産が発覚した場合、当該遺産のみ追加で遺産分割を行うのが一般的です。ただし、その相続財産の存在を知っていれば当初の内容での遺産分割を行うことはなかったとして、錯誤を理由に遺産分割協議をやり直すことがあり得ます。
また、遺産分割協議が成立した後に遺言書が見つかった場合には遺言書の記載に従って遺産分割がされるのが原則です。但し、相続人全員の同意がある場合には遺言の内容に従う必要はありません。
遺産分割協議に応じてもらえない場合にできること
遺産の分割について共同相続人との間に協議が調わない場合や、そもそも協議ができない場合には、各共同相続人はその全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができます(民法907条2項)。多くの場合、調停又は審判を家庭裁判所に申し立てることになります。
そもそも遺産分割協議が必要ない場合
遺言書の形式の不備及び内容に不満がない場合には遺言書の記載に従って相続されますので、遺産分割協議は不要です。また、遺言書が無くても相続人が一人しかいないような場合、そもそも協議すべき共同相続人がいないので遺産分割協議は不要です。
遺産分割協議のお悩みは弁護士にご相談ください
遺産分割協議は、他の事件に比べても親族間で話し合いをすることが多く、当事者同士ではこれまでのパワーバランスや感情的な対立によって、意見を押し付けられてしまうようなケースも珍しくありません。適切な遺産分割を行うためにも、相続問題を多く取り扱った経験のある弁護士に相談することをオススメします。
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保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)