監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士
遺産分割協議が終わり、ひと段落と思っていたら、新たな遺産が判明して、分割が必要となることがあります。また、非常に稀ですが、遺産分割協議をしたものの、相手方に騙されていて、遺産分割の取消が必要となる場合があります。本稿では、このような場合について解説します。
目次
遺産分割はやり直しができるのか
遺産分割は、原則として、やり直しできません。一度決めた遺産分割協議の内容を、当事者の一部の一存でやり直しできるとなれば、いつまでも遺産分割に関する紛争が続くことになってしまい、よくないためです。遺産分割協議で定めた内容を、相続人の一人が履行しなかった場合でも、遺産分割協議を債務不履行解除するとはできない、というのが、最高裁の判例です(最判平成元年2月9日)。
例外的に、遺産分割をした後、当事者である共同相続人全員が合意している場合、新たな遺産が見つかった場合、遺産分割そのものが錯誤等により取り消されたとき、等には、遺産分割のやり直しをすることはできます。
遺産分割後に他の財産が見つかった場合
新たな遺産が見つかった場合、新たな遺産は、共同相続人で遺産共有した状態のままです。この共有関係を解消するため、新たな遺産についての遺産分割協議が必須となります。
遺産分割協議の方法として、①新たな遺産についてだけ、遺産分割をする、②遺産分割全体をやり直す、の2つの方法があります。
①の方が、手間がかからないことはいうまでもありません。
もっとも、新たな遺産が、価値が高かったり、既存の遺産と関連するような場合には、②の方法を採らざるを得ないことがあります。遺産分割協議のやり直しの法的根拠として、遺産分割協議の合意解除や、錯誤取消(錯誤無効)などが想定されます。どの法的根拠によるかで、やり直しがそもそもできるかどうかや、課税関係に影響を与えることがありますので、慎重に検討する必要があります。
遺産分割のやり直しを行う場合に期限や時効はある?
共同相続人全員の合意により、遺産分割協議をやり直す場合、期限や時効はありません。ただ、大昔の遺産分割協議をやり直すとなると、当時の資料が散逸していることが多いです。そのため、遺産分割協議のやり直しが必要な事情が生じたときは、速やかに対応する必要があります。
取消権には時効があるので注意が必要
遺産分割協議のやり直しの根拠として、錯誤、詐欺、強迫による取消しによるときは、取消権の消滅時効に注意が必要です。
取消権は、「追認をすることができる時から5年間」又は「行為の時から20年」(民法126条)で、時効により消滅します。取消ができると分かったら、すぐ行動を起こさないと、消滅時効によりやり直しができない可能性もあるので注意が必要です。
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遺産分割をやり直した場合の注意点
遺産分割協議のやり直しの際、「どの遺産を誰が取得する」「いくら取得する」といったことだけを考えるのでは不十分です。やり直しの後、どういう手続が必要になるのか、税金をいくら納める必要があるのか、といった、やり直しの効果についても考えることが必要です。
やり直し前に第三者へ譲渡していた場合
遺産分割のやり直しの前に、不動産などの遺産を第三者に譲渡してしまった場合、原則として譲渡した財産を取り戻すことはできません。例外的に、遺産分割を強迫により取り消す場合には無条件に、錯誤又は詐欺で取り消すときは、譲渡を受けた第三者が遺産分割が錯誤又は詐欺によることを知っているか知らないことに過失がある場合に、第三者から財産を取り戻す余地があります(民法95条、96条)。
不動産の名義が変わった場合
遺産分割協議のやり直しの結果、不動産の所有者が変わった場合、所有権移転登記(名義変更登記)が必要になります。登記には、登録免許税や、司法書士に依頼する場合には司法書士費用等のコストがかかります。遺産分割協議のやり直しの際には、このようなコストも考えながら、遺産分割のプランを決めるようにしましょう。
課税対象となる場合がある
遺産分割をやり直した場合、贈与税、譲渡所得税、相続税等の納税が必要となることがあります。遺産分割協議のやり直しの際には、財産を誰がどのように取得するかだけではなく、その結果、どのような税金がかかるかまで、適切に検討しておかなければなりません。
遺産分割をやり直す際の期限について弁護士にご相談ください
遺産分割協議のやり直しは、ただでさえハードルが高いほか、やり直しの結果、予想もつかない課税などの結果が生じることがあります。遺産分割協議の際は、もちろん、やり直し際にも、弁護士に相談することが望ましいといえます。
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保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)