監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士
目次
相続の手続きには期限のあるものが多い
7日以内に必要な手続き
死亡届の提出
死亡の届出は、届出義務者が、死亡の事実を知った日から7日以内(国外で死亡があったときは、その事実を知った日から三箇月以内)にしなければなりません(86条1項)。これを過ぎてしまうと5万円以下の過料に処される可能性があります。
10日以内に必要な手続き
被相続人の年金受給の停止(厚生年金)
受給権者が死亡したときは、戸籍法の規定による死亡の届出義務者は、10日以内に、届書を、厚生労働大臣に提出しなければなりません(厚生年金法施行規則附則(平成9年3月28日厚生省令第31号)第77条参照)。
14日以内に必要な手続き
保険証の返還
国民健康保険に加入している人は、死亡の日の翌日から14日以内に市町村に届出し、保険証を返還しなければなりません(国民健康保険法8条、9条、同施行規則12条)。
協会けんぽ(全国健康保険協会)に加入している方の場合、保険証は遺族から事業主に返還し、事業主から協会けんぽに返還されます。
被相続人の年金受給の停止(国民年金)
被保険者又は受給権者が死亡したときは、14日以内にその旨を第三号被保険者以外の被保険者に係るものにあっては市町村長に、第三号被保険者又は受給権者に係るものにあっては厚生労働大臣に届け出なければなりません(国民年金法105条4項、国民年金法施行規則第24条参照)。
3ヶ月以内に必要な手続き
相続方法の選択
被相続人の権利義務の全てを相続するか(単純承認)、権利義務の一部だけを相続するか(限定承認)、一切相続しない(相続放棄)を選択することができます。ただし、これを選択できるのは、相続の開始があったことを知ってから3カ月以内が原則です(民法第915条)。
・単純承認
単純承認を選択した場合、相続人は無限に被相続人の権利義務を承継します(民法第920条参照。)「無限に」とは、被相続人の総ての相続財産のことをいい、相続財産には積極財産(プラス)も消極財産(マイナス)も含まれます。
・限定承認
限定承認とは、相続した積極財産の範囲ないにおいてのみ相続債務及び遺贈を弁済することを条件とする相続の承認のことをいいます(民法第922条参照)。消極財産が相続財産を越えていたとしても、相続財産の範囲を越えて負債を負うことがない等のメリットがありますが、手続は非常に煩雑で、実務で利用されるケースは多くない印象です。
・相続放棄
相続放棄(民法第938条)とは、相続財産を承継しない旨の意思表示です。家庭裁判所に相続放棄の申述をすることで、被相続人の一切の権利義務を免れます。
相続財産の調査、目録の作成
期限は決められてないものの、相続方法の選択に影響するため、相続開始から3カ月以内に行うことが望ましいと思います。
4ヶ月以内に必要な手続き
準確定申告
年の中途で死亡した人の場合、相続人が1月1日から死亡した日までに確定した所得金額及び税額を計算して、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に申告と納税をしなければなりません。
10ヶ月以内に必要な手続き
相続税の申告及び納税
相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行わなければならないのが原則です。なお、この期限が土曜日、日曜日、祝日などに当たるときは、これらの日の翌日が期限となります。
遺産分割協議書の作成
相続税額を確定させるためにも、申告期限内に遺産分割協議を済ませ、遺産分割協議書を作成しておくことをおススメします。
1年以内に必要な手続き
遺留分侵害額請求
兄弟姉妹以外の相続人には、「遺留分」が認められています。それが侵害されている場合、遺留分侵害額請求権を行使することが可能です(民法1042条1項)。相続人にとって特に重要な権利になりますが、遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅してしまうので、注意が必要です(民法第1048条)。
2年以内に必要な手続き
葬祭費の請求
被相続人が国民健康保険や後期高齢者医療保険に加入していた場合、葬儀を行った日の翌日から2年以内に市区町村役場へ申請することで、市区町村により葬祭費が支給されます。支給の額は市区町村により異なるところ、福岡市の場合は3万円が支給されます。
3年以内に必要な手続き
生命保険(死亡保険)の生命保険会社への請求
保険給付を請求する権利は、これらを行使することができる時から3年間行使しないときは、時効によって消滅するとされています(保険法第95条1項)。もっとも、援用されない限り時効は成立しません。忘れていたとしても、諦めずに保険会社に相談してみましょう。
相続税の軽減措置
上でも述べたとおり、被相続人が亡くなった日の翌日から10ヶ月以内に相続分を確定させ、相続税を申告しなければ適用されません。もっとも、10カ月以内に遺産分割が成立せずに相続分確定前にそれらを申告する場合、申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して提出する必要があります。この場合、相続税の申告期限後3年以内に相続分を確定させ、更正の請求を行う必要があります。
5年以内に必要な手続き
相続税の還付請求
相続税の申告額に誤りがあり、相続税を多く払い過ぎてしまった場合には、相続税の申告期限後5年以内に更正の請求をすることで、払い過ぎた税金の還付を受けられることがあります。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
期限のない相続手続き
法定相続人の確定
遺産分割協議は相続人全員で行わなければなりません。最新の戸籍に記載がなくとも、前妻との間の子や、認知した婚外子等がいる可能性もあります。必ず被相続人の出生から死亡までの戸籍を取得し、相続人を確定させる必要があります。
遺言書の有無の確認、検認
遺言書がある場合には、遺言書の内容に従って遺産分割がされる必要があります。遺産分割協議後に遺言が見つかった場合には、遺産分割をやり直さなければならないことになりかねませんので、遺言書の有無は必ず確認しましょう。公正証書遺言は公証役場に照会することができます。また、令和2年7月には自筆遺言を遺言保管所で保管する制度も新設されました。
遺産分割協議
遺産分割協議は、遺言により制限された場合(民法第908条)を除き、いつ行っても構いません。もっとも、遺産分割協議を済ませなければ財産の処分ができない、遺産が散逸する等の可能性がありますので、早い協議成立が望ましいことは言うまでもありません。
預貯金などの解約、名義変更
原則銀行預金等の商事債権は5年、信用金庫等の民事債権は10年の時効が設けられているため、この期間を過ぎると、預貯金口座の解約や払い戻しを断られることがあり得ます。実務的には時効期間経過後も手続に応じてくれる場合が多いものの、できるだけすみやかに手続を行うことが望ましいといえます。金融機関等によって異なるものの、殆どの場合、払い戻しを受ける際には遺言書または遺産分割協議書、被相続人と相続人の戸籍謄本等の提出・提示を求められます。
(不動産を相続する場合)相続登記
不動産の登記名義人を変更する場合、法務局に登記申請書を提出する必要があります。遺産分割協議で不動産の取得者が決まった場合等には、遺産分割協議書と相続人全員の印鑑登録証明書が必要になります。
(車やバイクを相続する場合)名義変更
遺産分割協議によって特定の相続人に名義変更する場合、遺産分割協議書や印鑑登録証明書等が必要になります。
相続の手続きは自分でできる?
結論だけを申し上げれば、相続手続きは自分でもできます。しかし、これには大変な労力と時間を使うことは免れません。親族が亡くなってショックを受けているにも拘わらず、故人を悼む間もなく、遺言の有無を確認したり、戸籍等の資料を集めるだけの手続でも各地の役所に並行して問い合わせなければなりません。また、役所での手続は主に平日日中に行わなければならない等の不便な点もあります。慣れていない限り、自分でやろうとするのはおススメできません。
相続手続きについてわからないことがあったら弁護士にご相談ください
相続の手続には、守らなくてはならない期限や時効に注意しなければなりません。最悪の場合、期限内に手続ができなかったがために、相続放棄ができず多額の負債を背負うことにもなりかねません。書類の提出先も家庭裁判所、税務署、市区町村等、多岐にわたる手続を並行して行わなければなりません。取り返しのつかないことになる前に、経験の豊富な弁護士に依頼することをおススメします。
-
保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)