監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士
相続は誰しもが直面するものです。相続が開始すると、遺産分割協議を行い、実際に遺産分割を行うまでの間に、様々な問題に直面する可能性があります。
今回は、数ある問題の中でも、遺産分割協議中に、相続人の一人が亡くなってしまったという事態が発生した場合、これを数次相続と言いますが、この際の取り扱いについて解説していきます。
目次
数次相続とは
数次相続とは、ある人に関する遺産分割協議が完了しない段階で、相続人の誰かが死亡し、その結果、その相続人についての相続が発生した状況を言います。
法律上の規定は存在しませんが、相続人は、被相続人の一切の権利義務を承継することとされていることから、生前有していた相続人としての立場を、その相続人が受け継ぐこととなるのです。
数次相続の具体例
具体的には、被相続人(祖父)についての遺産分割協議の完了までに、被相続人(祖父)の子(父母)が死亡してしまい、その相続人の子(被相続人である祖父からすれば孫)が重ねて相続した場合や、父の死亡後、続けて母が亡くなってしまった場合等が想定されます。
祖父 ▶ 一時相続 ▶ 父 ▶ 二次相続(遺産分割協議完了前) ▶母・子
父 ▶ 一時相続 ▶ 母・子 ▶ 二次相続(遺産分割協議完了前) ▶子
以下では、基本的に、まず祖父が亡くなり、その後、その子(父)が亡くなり、さらにその子(孫)がいるというケースで、「一次相続」=祖父からの相続、「二次相続」=父からの相続という前提でお話ししていきます。
数次相続はどこまで連鎖する?
数次相続の上限は、法律上はありません。したがって、いざ相続人の立場となった場面で、祖父母だけでなく、何世代も前の故人の遺産分割に関する遺産分割協議がなされていない場合には、これに関与する可能性もあります。
そういった場合には、相続人および遺産の調査がより複雑となり、時間を要することとなります。
代襲相続と数次相続の違い
数次相続という言葉に対して代襲相続という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
代襲相続とは、相続開始より前に相続人が死亡した場合等に、その相続人の子や孫が、相続人に代わって被相続人を相続する場合をいいます(民法887条)。
代襲相続と数次相続の大まかな違いは、①相続人の死亡の時点、②相続人の範囲です。
まず①について、代襲相続は、被相続人(祖父)の相続開始より前に相続人(父)が死亡してしまった場合に発生します。
これに対し、数次相続は、被相続人死亡後、遺産分割協議が完了するまでに死亡した場合に発生します。
次に②について、代襲相続は、相続人の子や孫に関してしか発生しません。これに対し、数次相続においては、相続人の範囲が限定されていません。
相次相続と数次相続の違い
相次相続というものもあります。これは、税控除制度の話です。
被相続人が死亡し、相続が発生したときに、その開始前10年以内に、被相続人が、相続等によって財産を取得し、相続税の負担をしていた場合に、当該被相続人から相続を受けた者ついては、通常生ずることとなる相続税の一部控除を受けることができるというものです。
一次相続と、二次相続の期間の長短や、一次相続の際の相続税の額によって、控除額は変動します。この相次相続については後述します。
数次相続の場合の相続手続き
では、実際に数次相続が発生した場合、どのような手続をとっていけばよいのでしょうか。
以下、順にそって説明していきます。
相続人を確定させる
まず重要なのは、その段階で、誰が相続人となっているのかを確定させることです。
遺産分割協議は基本的に相続人全員で行う必要があるからです。
確定させる方法としては、亡くなられた方の戸籍謄本から相続人を辿っていくという流れになり、相続人が多数存在する等、場合によってはその手続が非常に複雑になることも考えられます。
遺産分割協議を行う
相続人が確定すれば、遺産分割協議を行っていきます。
遺産分割協議の流れとしては、前提となる権利関係を確定した上で、それにつながる権利関係を整理する方が、基本的には分かりやすいので、一次相続に関する協議を行った後に、二次相続に関する協議を実施していくというのが基本的な流れのように思われます。
もっとも、一次相続と二次相続で相続人が共通している場合等には、まとめて協議を行うということも十分考えられます。
どのように遺産分割協議を行っていくかについては、状況に応じて判断していくのが良いと思われます。
遺産分割協議書を作成する
協議がまとまれば、遺産分割協議書の作成に移ります。
協議書は、まとめての作成、個別の作成のいずれでも可能です。
協議書をまとめて作成する場合、一次相続及び二次相続における相続人としての立場が重複する人がいる場合もあります。例えば、父が死亡した後に、母も死亡してしまったという場合などです。この場合には、父母の子は、父の相続人かつ母の相続人という地位に立ちます。
このような場合には、誰の相続人であるかを協議書の署名欄において明示する必要があります。
数次相続における登記手続き
相続において、不動産等を相続することとなった場合には、所有権移転登記手続を行う必要があります。 登記手続においては、基本的には、所有権の移転する流れを順番に記載する必要があるので、数次相続によって所有権を取得するに至った場合には、祖父から父への相続、父から子への相続という順番に沿って、所有権移転登記を行うことが原則です。
もっとも、登記簿上、最初の名義人から最終的な相続人への相続が行われたように記載し、間の相続人への所有権移転登記を省略する、中間省略登記が可能な場合もあります。
例えば、一次相続の相続人が一人であった場合や、一次相続の相続人が複数いる場合で、その中の一人が単独で相続することとなった場合などが挙げられます。
数次相続において相続放棄する場合
数次相続において、相続放棄という選択をする場合、考えらえるのは、①一次相続と二次相続の両方を相続放棄する、②一次相続のみを相続放棄する、③二次相続のみを相続放棄するという3通りです。
まず①、②については相続人が自由に選択することができます。
もっとも、相続放棄には相続人となったことを知った時から3か月以内に行わなければならないという期間制限があります(民法915条)。この期間制限との関係で、一次相続の相続放棄の期間が徒過していれば、一次相続を相続放棄するということはできません。
また、③のような選択肢をとることはできません。なぜなら、二次相続を放棄するということは、父の一次相続に関する相続人としての地位をも放棄することにつながるからです。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
数次相続の注意点
基礎控除額に変更なし
相続する際、相続する財産に対しては相続税が課税されますが、課税価格の一定額については、相続税が課税されない部分があります。これを基礎控除額といいます。
基礎控除額は「3000万円+600万円×法定相続人の人数」によって算出することができます。
法定相続人の人数は、当該相続が発生した時点での法定相続人の人数によって決定されます。二次相続があったとしても、一次相続当時の法定相続人の人数は変動しません。したがって、二次相続によって、相続人が増えたとしても、一次相続に関する基礎控除額は変わりません。
相続税の申告と納税義務が引き継がれる
相続人には、相続の際に相続税の申告と納税の義務があります。
二次相続の相続人となった者については、二次相続の分の相続税の申告と納税義務に加えて、一次相続の同義務も負担する必要があります。
一次相続の相続人かつ二次相続の被相続人となった者(例で挙げたケースでいえば父)は、相続税の申告や納税を行っていないので、この義務につき、二次相続をした者が負担する必要があるということです。
相続税の申告期限は延長になる
相続税の申告の期限は、原則として、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。
申告期限までに相続税の申告を行わない場合や、実際に取得した財産よりも少ない額で申告した場合には、延滞税や加算税が課される可能性があります。
これに対して、相次相続が発生した場合には、二次相続の相続人について、二次相続の被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内というように、申告期限が延長することとなっています。
相次相続控除が受けられる
前述したとおり、相次相続控除とは、被相続人が死亡し、相続が発生したときに、その開始前10年以内に、被相続人が、相続等によって財産を取得し、相続税の負担をしていた場合に、当該被相続人から相続を受けた者ついては、通常生ずることとなる相続税の一部控除を受けることができるというものです。
数次相続が発生した場合にも、二次相続が、一次相続の開始時点から10年以内に発生したとすれば、同控除を受けることができます。
祖父 ▶ 一次相続 ▶ 父 二次相続 ▶ 子
〈一次相続から二次相続までの期間が10年以内であれば控除を受けられる〉
控除額は前回の相続において課税された相続税額のうち、1年につき10パーセントの割合で逓減した後の金額とされています。
数次相続は複雑なので弁護士にご相談ください
数次相続にはこれまで述べてきた通り、複数の複雑な手続が必要となっています。
手続の中には、期間制限が存在するものもあり、大切なご家族を失われたなかで、この手続を進めていくのは、身体的・精神的にとても大変です。一度手続を誤ると、後々に問題となる可能性も十分にあります。
この点、弁護士に依頼すれば、相続に関する手続を一任でき、一定程度ご依頼者様の負担を軽減することも可能です。
特に数次相続のような複雑な事案においては、専門家である弁護士にぜひご相談ください。
-
保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)