監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士
交通事故が発生した際、まず、あなたの事故を「人身事故」として警察に処理してもらうことが必要です。
「人身事故」で処理される場合は、捜査機関側で「実況見分調書」という公的な記録が作成されます。「人身事故」では、この「実況見分調書」という確かな証拠に基づいて、交渉・裁判を行うことができます。
交渉・裁判等の法的手続きに移行する場合に備えて、「人身事故」として手続きを進めてもらうことが必要です。
目次
交通事故を人身事故で処理すべき理由
加害者への責任が発生する
人身事故の場合に加害者に生じる法的な責任は次のとおりです。
【行政上の責任】・人身事故であれば、その時点で、運転免許について、最低でも2点以上の点数付加。 ・物損事故であれば、原則として点数は加算されません。
【刑事上の責任】・加害者を過失運転致死傷罪等で立件することを目指し、捜査機関が証拠収取開始。実況見分調書の作成が始まる。
【民事上の責任】物損及び人損について、被害者に対する民事上の損害賠償責任が発生する。
逆に言えば、物損事故とすると
① 加害者の免許には原則として点数が付加されない。
② 加害者は罪に問われず、詳細な刑事記録が作成されない。
③ 加害者は、物損についてのみ、民事上の責任を負う。
ということとなります。
慰謝料請求が可能に
物損の場合には、慰謝料は発生しません。人身事故のみ慰謝料の請求ができます。
交通事故の慰謝料について詳しくみる人身事故と物損事故の違いとは
交通事故の際、加害者から「物損事故にしてほしい」と言われたりすることがあります。
加害者側にとって、物損事故となるか人身事故となるかは重要な問題です。被害者側にとっても、どちらにするかは重要な選択ですが、被害者側で物損事故に敢えてするメリットはほとんどありません。
人身事故となった場合は、実況見分調書が作成されます。これは、交通事故の状況を図と写真とでまとめたもので、保険会社との交渉や裁判の際に、極めて重要な証拠となります。警察官という、いわば公的な第三者が作成したものですので、証拠としての価値はとても高いものとなります。
物損事故とした場合は、この実況見分調書が作成されなくなってしまい、簡易な記録しか作成されませんので、後になって怪我の症状が出た場合に、事故の状況を証明することができなくなります。
人身事故とは
人的被害が発生した事故をいいます。
物損事故とは
物的損害のみが発生した事故をいいます。自賠責保険の対象とはなりません。
物損事故は人身事故へ切り替えられる?
物損事故から人身事故への切り替えは、事故と怪我との間に関係がある(法的には、「因果関係がある」といいます。)と捜査機関側が認めた場合に行われます。
切り替えは早めにおこなう
切り替え自体には、いつまでにしなければならないという期限はありません。しかし、事故から時間が経てば経つほど、その怪我が事故により本当に生じたものであるかどうかの説明が難しくなっていきます。
可能な限り、切り替え手続きは早く済ませることをお勧めします。
人身へ切り替えなかったことで後悔しないよう弁護士へ
事故が起きた直後は、加害者への同情等により、物損事故としての処理が希望されることが多いようですが、避けた方がよいです。
物損事故として処理がなされ、時間が経過した後に怪我の症状が出てしまった場合、怪我と事故の関係を客観的に証明する証拠がないという状況に陥り、本来得られるはずの賠償金が受け取れなくなってしまいます。 このような最悪の結果を回避するためには、早めに弁護士に相談し、人身事故手続への切り替えを行うことをお勧めします。
人身事故への切り替え方法
管轄の警察署に予約を入れ、必要な書類を揃え、警察署に出向く必要があります。郵送での切り替えはできません。
必要なもの
〇 医師による診断書 診断書には、事故と怪我との関係を記載してもらいましょう。具体的には、・交通事故の態様
・交通事故の発生した日付
・当該交通事故によってどの部位にどのような怪我を負ったのか
といった事項の記載が必要です。
〇 運転免許証
〇 事故車両
〇 認印
〇 車検証
〇 自賠責保険証明書
届け出先
事故が発生した現場を管轄している警察署へ届出を行います。郵送では対応してくれませんので、警察署に出向く必要があります。
申請時の注意点
原則として加害者も共に出頭する必要がありますが、加害者の協力を得られないからといって切り替えができないというわけではありません。
怪我が交通事故によるものであることを、医師の診断書とともに主張することが必要です。
事前に連絡をして、予約を入れておきましょう。
人身事故への切り替えが認められない場合
保険会社へ人身事故扱いにしてもらう
警察で人身事故への切り替えをしてもらえない場合は、「人身事故証明書入手不能理由書」を提出することで、保険会社において、人身事故扱いにしてもらうという方法があります。
もっとも、「人身事故証明書入手不能理由書」は自賠責へ事情を説明する資料に過ぎず、何かを公的に証明する証明書ではありません。
また、人身事故・物損事故の区分は捜査機関側の設けている区分ですので、そもそも保険会社側に人身事故・物損事故の振り分けを行う権能はありません。保険会社が裁量で人身事故として扱ったとしても、実況見分等、詳細な捜査が行われるわけではない点に留意する必要があります。
裁判を起こす
保険会社が人身事故として扱わないとしても、裁判を起こして、事故と怪我の因果関係を客観的な証拠に基づいて主張立証することができれば、賠償金の請求は可能です。
もっとも、当初物損事故として届出を行っていたことと、警察が人身事故への切り替えを認めなかったことは、一般的にはこちらに不利な事情として取り扱われるため、厳しい裁判となります。ご本人で対応することはかなり厳しいですので、弁護士に依頼することをお勧めします。
弁護士が入ることで対応が変わることもあります。まずはご相談ください
警察が人身事故への切り替えをしてくれない場合でも、弁護士が介入することで、切り替えてもらえるケースがあります。
また、切り替えをしてくれない場合でも弁護士による調査により、事故と怪我の関係を証明し、適切な損害賠償請求を実現できる可能性があります。
早期に弁護士に依頼すれば、適切な賠償の実現可能性が高まりますので、早めに弁護士に相談されることをお勧めします。
-
保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)