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相続問題

共同相続とは|トラブルを避けるために知っておくべきこと

福岡法律事務所 副所長 弁護士 今西 眞

監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士

相続開始後、「共同相続」という状態が生じることがあります。この状態は、暫定的なものであるため、解消しないとトラブルのもとになったり、法律関係が複雑化したりします。
本稿では、共同相続について詳しく説明していきます。

共同相続とは

共同相続とは、被相続人が亡くなり、相続が開始した後、相続人が複数いる状態をいいます(民法898条)。共同相続は、遺産に含まれる個別財産の帰属について暫定的(最終的に決まっていない)状態です。個別財産の帰属について、確定的に決めるためには、遺産分割を経なければなりません。

共有財産とは

共同相続の場合に共有となる「相続財産」とは、遺産分割の対象となる「遺産」を意味します。
共同相続の場合、遺産分割が完了するまで、相続財産は共有状態(遺産共有)になります。
ここで、被相続人が生前有していた財産と「遺産」が、必ずしも同じではないことに注意が必要です。
被相続人が生前有していた財産であっても、帰属上の一身専属権とされるものは「遺産」にはあたりません。また、金銭債権・金銭債務などは、相続の対象となりますが、相続に伴って当然に分割されるため、遺産共有にはなりません。
詳細は、遺産についての記事を参照してください。

相続財産調査 | 財産の種類や調査方法

共同相続人と法定相続人の違い

「共同相続人」と「法定相続人」は、微妙に異なります。
「法定相続人」とは、民法900条、901条所定の相続人を意味します。被相続人が存命中は、「推定相続人」と呼ばれます。
一方、「共同相続人」は、現実に遺産を共有する相続人です。例えば、推定相続人であったとしても、相続放棄をした者、相続廃除をされた者、相続分の全部譲渡をした者は、共同相続人に該当しません。これに対し、推定相続人ではない者に対して、相続分の譲渡がなされた場合、譲渡を受けた者は、共同相続人として、遺産分割に参加することになります。
このように、相続開始後の法律関係に応じて、共同相続人と法定相続人のずれが生じることがあります。

共同相続人ができること

単独でできる行為

共同相続人による遺産共有が生じている場合、共同相続人は、物権法(民法175条以下)の規律に従って遺産を管理することになります。
そのため、共同相続人は、保存行為(民法252条)に該当する行為を、単独で行うことができます。保存行為とは、財産の現状を維持するための行為です。例えば、建物の雨漏りの修繕や、不法占有者に対する明渡請求などです。
裁判例では、法定相続分による相続登記(相続を登記原因とする所有権の移転登記)なども保存行為とされます。そのため、共同相続人のうち一人から、相続登記をすることができます。もっとも、法定相続分での相続登記をしたとしても、後々、遺産分割で、不動産の所有者(共有者)が変わってしまう可能性があります。不動産の所有権移転登記には、登録免許税、不動産取得税等の公租公課や、司法書士費用等の費用がかかることが通常です。後々のことを考えると、保存行為として相続登記をするかどうか、慎重に検討した方がいいでしょう。

全員の同意書が必要な行為

保存行為が単独でできるのに対して、処分行為、つまり、遺産を売却したり、変更を加えたりする行為については、共同相続人全員の同意が必要です。例えば、遺産となった預貯金の払い戻しには、相続人全員の同意書と印鑑証明書の添付が必要となることが一般です。このような取扱いも、預貯金の払い戻しが、処分行為に該当することを前提としています。

共同相続人を辞退する方法

いろいろな事情で、共同相続人の立場から抜けたいということがあります。そのようなときに想定されるのが、相続放棄と相続分の全部譲渡です。

相続放棄は、家庭裁判所への申述により行います。相続放棄の効力が生じると、相続人としての資格を一切失います。これにより、共同相続人ではなくなり、遺産分割への参加もできなくなります。また、相続債務を支払う義務もなくなります。
注意をしなければならないのは、「相続放棄は家庭裁判所へ申述しなければならない」ということです。共同相続人間で、「相続人○○は、相続を放棄します」といった書面を作成しても、相続放棄とはなりません(遺産分割協議と評価される可能性はあります。)。そのような場合、相続債務の支払義務を免れませんので注意しましょう。

一方、相続分の譲渡とは、積極財産と消極財産とを包含した遺産全体に対する譲渡人の割合的な持ち分を譲渡することです。プラスの財産もマイナスの財産も含めて、遺産の共有持ち分を譲渡するものといえます。
相続分の全部譲渡がなされた場合、譲渡人は、共同相続人ではなくなり、遺産分割に参加する資格を失います。一方、相続債務については、相続債権者の同意(免責的債務引受に関する同意)がない限り、引き続き、譲渡人が、支払義務を負担することになります。
相続分の譲渡の場合、注意しなければならないのは、課税が生じるとことがあるということです。無償譲渡の場合、譲受人には相続税又は贈与税が課されることがあります。また、有償譲渡の場合、譲渡人には相続税、譲渡所得税が、譲受人には相続税、贈与税が課されることがあります。

単純に、「一切得しなくてもいいから、共同相続人から外れたい」というときは、相続放棄が望ましいです。

遺産分割協議をしないと共同相続状態が解消できない

遺産共有状態(共同相続状態)は、遺産分割が完了するまで続きます。

この遺産共有状態の時に、共同相続人が死亡すると、さらに相続が発生して、法律関係が複雑化します。
そのため、相続財産の調査が終わり、遺産の全容が分かった後、可能な限り早く、遺産分割協議を始めた方がいいです。

遺産分割協議や遺産分割調停については、解説ページをご覧ください。

遺産分割協議とは|揉めやすいケースと注意点 遺産分割調停の流れとメリット・デメリット

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限定承認したい場合は共同相続人全員の同意が必要

特殊な手続として、「限定承認」があります。
限定承認とは、相続財産の限度でのみ被相続人の債務・遺贈を弁済すべきことを留保して相続を承認するとの、相続人による意思表示をいいます(民法922条以下)。
限定承認の手続は、共同相続人の全員で、家庭裁判所に申述してする必要があります(民法924条)。また、共同相続人のうち一人が単純承認(民法920条、921条)、限定承認をすることはできません。
このような制約に加え、限定承認の手続が非常に煩雑であることから、限定承認は、ほとんど利用されていません。
詳細は、各解説ページをご覧ください。

単純承認とは|借金相続のリスクについて 限定承認とは|相続で限定承認を行うメリットとデメリット

共同相続した家に住み続けることはできるのか

被相続人が、父A、法定相続人として、母B、子C、D、Eがいたとします。
父Aと、母B、子Eが、父A所有の不動産甲建物で、同居していたところ、父Aが死亡した場合、母Bと子Eは、甲建物に住み続けることができるかどうか、検討します。
まず、母B、子C、D、Eは、共同相続人として遺産を共有しますので、甲建物も共有していることになります。そして、共有者は、共有持分に基づいて、共有物を使用収益する権限がありますので、母B、子Eは、甲建物を使用収益することが可能です。そして、母B、子Eと別に暮らしている子C、Dも、同じく共有者ではありますが、母Bと子Eに対して、明渡しを請求することは、原則としてできません(最判昭和41年5月19日民集20巻5号947頁)。また、母Bと子Eは、遺産分割により、甲建物の所有者が、最終的に確定するまで、子C、子Dに損害金を支払わなくてもよいと解されます(最判平成8年12月17日民集50巻10号2778頁)。
なお、いわゆる相続法改正により、母Bには、配偶者居住権が認められることもあります(民法1018条以下。相続開始が、令和2年(2020年)4月1日以後であることが必要です。)。

共同相続人が不動産を売ってしまった場合

共同相続人のうち一人が、遺産分割前に、相続分を第三者に譲渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、相続分を取り戻すことができます(相続分の取戻権。民法905条1項)。
これは、相続という家庭内での出来事に、全く無関係の第三者が介入することを防止することを目的とした制度です。そのため、取戻の相手方である「第三者」には、相続人は含まれないと解されています。相続分の取戻権には、1か月の期間制限があるので注意が必要です。

これに対し、例えば、遺産の中の特定の不動産について、保存行為として相続登記がされた後、共有者の一人が、第三者に共有持分を譲渡した場合、相続分の取戻権を行使することはできません。「相続分」の譲渡(民法905条1項)ではないためです。このような場合、共有物分割の手続により、共有関係を解消しなければなりません(最判平成25年11月29日最高裁判所民事判例集67巻8号1736頁)。

なお、遺産の中の特定の不動産について、共同相続人全員の同意により売却することも可能です。この場合、売却代金は、遺産分割の対象とはなりません(最判昭和54年2月22日最高裁判所裁判集民事126号129頁)。売却代金を遺産分割の対象とするためには、別途、共同相続人の全員で、その旨の合意をしておく必要があります。

共同相続はトラブルになりやすい

共同相続状態は、暫定的な状態です。遺産の管理方法でもめることもあれば、遺産の一部を処分する・しないでもめることもあります。
また、不動産の共有持分を処分できてしまう等、流動的な状態でもあります。
このような暫定的・流動的な遺産共有状態をそのままにしておくと、新たな相続の発生、遺産の一部の譲渡、滅失等による法律関係の予想外の変動が生じかねません。

共同相続は早めに解消を。弁護士にご相談ください。

以上のような共同相続状態(遺産共有状態)は、早めに解消するに越したことはありません。
共同相続状態を解消するには、複雑な法律判断が必要です。お早めに弁護士にご相談ください。

福岡法律事務所 副所長 弁護士 今西 眞
監修:弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長
保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)
福岡県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。