監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士
交通事故で脳に衝撃が加わった場合、びまん性軸索損傷を発症することがあります。この場合、外見上は回復しているように見えます。
しかし、数時間前に自分がしたことを忘れてしまったり、ぼんやりしてミスばかりしたり、感情を抑えきれなくなってキレたりする等、日常生活を送るうえで支障となるような症状が表れることがあります。 以下では、びまん性軸索損傷について詳しく解説していきます。
目次
びまん性軸索損傷とは
びまん性軸索損傷とは、脳に衝撃が加わった場合に、神経細胞の一部である軸索の断裂が起こる障害のことをいいます。これは、脳に回転性の衝撃が加わることで、組織により回転の速度が異なるため、各組織間にズレが発生し、軸索が断裂するというメカニズムとなっています。
びまん性軸索損傷は、衝撃が脳全体に及んでいるところに特徴があり、そこが局所的脳損傷である硬膜外血腫や脳挫傷等とは異なっています。もっとも、衝撃が脳全体に及んでいるとはいっても、損傷が全体に均一に拡がっているわけではありません。脳の部位によって損傷の程度が異なり、損傷している軸索も存在すれば、損傷していない軸索も存在します。
びまん性軸索損傷の場合、脳に強いダメージを受けているだけではなく、臓器の損傷や手足の骨折等が生じていることが少なくありません。そのため、生命の危険もあり、病院で早急に治療を受ける必要があります。
びまん性軸索損傷と診断されたらすべきこと
びまん性軸索損傷については、いまだ有効な治療方法が見つかっていません。そのため、受傷直後は臓器の損傷や手足の骨折等の治療をし、その後は全身の管理を行い、事後の合併症の併発を回避することが重要となります。もっとも、一度脳機能が低下したとしても、徐々に回復する可能性はあり、リハビリテーションに取り組むことが重要になります。
びまん性軸索損傷の診断には、CTやMRI画像等の客観的資料がポイントになるため、MRI検査等を受ける必要があります。これらの画像は、びまん性軸索損傷の診断においても重要ですが、後遺障害等級認定申請や相手方保険会社との示談交渉の際にも、びまん性軸索損傷を発症したことを立証するための重要な資料となります。
びまん性軸索損傷でお困りの場合は、弁護士へご相談ください
びまん性軸索損傷は重度の後遺障害が残ることがあるものの、局所的脳損傷とは異なり患部を特定することが難しく、他の後遺障害に比して立証することが困難であるといえます。そのため、びまん性軸索損傷であることを立証するためには、立証するための入念な準備活動が必要になります。
この点、びまん性軸索損傷については、急性期の脳の画像と慢性期の脳の画像を比較することが一つのポイントであり、早期に資料の収集を行う必要性が生じます。資料の収集が十分に行われなかったため、びまん性軸索損傷を発症していないと認定されないよう、十分な立証を尽くすために弁護士に相談することをお勧めします。
びまん性軸索損傷の症状
びまん性軸索損傷の症状としては、認知障害と行動障害があります。
認知障害としては、記憶障害や注意障害といったものが挙げられます。記憶障害としては、つい数時間前のやりとりを思い出せず、そのために何度も繰り返し同じ話をしてしまうといった症状として表れます。注意障害としては、注意力が散漫となり、ミスばかり繰り返してしまうといった症状として表れます。
行動障害としては、感情コントロールの低下や意欲の低下といったものが挙げられます。感情コントロールの低下としては、ふとしたキッカケで感情を抑えきれずにキレてしまうといった症状として表れます。意欲の低下としては、学生であれば勉強に対する意欲が低下するという症状として表れ、結果として学業の成績が落ちるといったことがあります。
MRI検査の重要性
びまん性軸索損傷を発症していると認定するための客観的資料としては、CT・レントゲン、MRI等の画像所見が挙げられます。
びまん性軸索損傷の場合、受傷した直後のCT及びMRI画像では一見正常に見えることがあります。しかし、びまん性軸索損傷の特徴として、時間の経過により脳室の拡大や脳の萎縮が生じるとされています。そのため、受傷直後の画像診断だけではなく、定期的に脳室が拡大していないか、脳が委縮していないかという点について画像で確認することが必要になります。
びまん性軸索損傷について画像所見を得る場合、CT検査よりもMRI検査のほうが優れているとされています。それは、びまん性軸索損傷の場合には、脳内に微量の出血が生じることがあり、微量の出血についてはCT画像よりもMRI画像のほうが画像上鮮明に確認することができるからです。
びまん性軸索損傷の経過と状態
びまん性軸索損傷は、受傷した直後のCT及びMRI画像では一見正常に見えます。しかし、時間の経過により脳室の拡大や脳の萎縮が生じることから、急性期から慢性期への時間の経過を意識して、脳の状態について定期的に確認する必要があります。
急性期
急性期の典型的な症状として、受傷直後から6時間以上の意識の消失が生じます。意識の消失期間が長いほど、後遺障害が残りやすく、後遺障害の程度も重くなる傾向にあります。
この時、画像を一見すると正常に思えますが、脳内に微量の出血が生じていることがあります。そのため、脳内の微量の出血について画像で確認できるかどうかがポイントとなります。
慢性期
慢性期では、意識消失からは回復しますが、その後も精神症状や神経症状が残り続けることがあります。
そして、びまん性軸索損傷を原因とする脳の萎縮は、受傷から約3か月で停止するとされています。そのため、びまん性軸索損傷であると診断するためには、急性期の脳の画像と慢性期の脳の画像を比較して、脳の萎縮が認められるかどうか確認することが大変重要になります。
認定される可能性のある後遺障害等級と慰謝料
びまん性軸索損傷を発症し、それに対する治療を行うと、入通院を余儀なくされた精神的苦痛について入通院慰謝料を請求することができます。
また、びまん性軸索損傷を発症している場合、後遺障害等級認定される可能性があります。びまん性軸索損傷の場合、神経系統の機能又は精神に障害を残すものとして、自賠法施行令1級1号、2級1号、3級3号、5級2号、7級4号、9級10号のいずれかの後遺障害等級に該当することが考えられます。後遺障害等級認定されれば、後遺障害慰謝料を請求することができます。
後遺障害等級について詳しくみる高次脳機能障害
高次脳機能障害とは、脳の高次脳機能に発症した障害のことをいいます。この場合、認知障害や行動障害等の症状が生じ、日常生活にも支障が出ることがあります。
後遺障害等級認定の審査にあたっては、「意思疎通能力」「問題解決能力」「作業負荷に対する持続力・持久力」「社会的行動能力」の4つの能力の喪失程度に着目して評価を行うことになっています。
交通事故による高次脳機能障害 請求できる後遺障害慰謝料等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
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1級1号 | 1100万円 | 2800万円 |
2級1号 | 958万円 | 2370万円 |
3級3号 | 829万円 | 1990万円 |
5級2号 | 599万円 | 1400万円 |
7級4号 | 409万円 | 1000万円 |
9級10号 | 249万円 | 690万円 |
びまん性軸索損傷の裁判例
被告運転の自動車が道路を走行中、道路を右方から左方に向かい進行してきた原告(男性・事故当時13歳)運転の自転車と衝突しました。当該事故により、原告は、頭部外傷、脳挫傷、外傷性くも膜下出血等の傷害を負いました。
びまん性軸索損傷を発症しているか否かについては、当事者間に争いがありました。この点について、裁判所は、事故の態様、意識消失期間が優に6時間を超えていたこと及び顕著な記憶障害や社会的行動障害が認められたこと等から、原告が当該事故により脳に強い衝撃を受け、びまん性軸索損傷を負ったことを認定しました。
そして、後遺障害の程度については、原告において一般就労を維持することができるものの、具体的に以下の症状が認められることから、問題解決能力等に障害が残っているものと認定したうえ、自賠法施行令9級10号(神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの)に相当するとの判断をしました。
- ・会話の内容を覚えることができず、同じことを何度も聞き返したり話したりする。
- ・物の置き場所や買い物の約束などを忘れることがある。
- ・ストーブの消化、家の戸締りなどを忘れる。
- ・公共交通機関の複雑な乗り換えをすることができない。
- ・知らない場所には一人で到達することができない。
- ・言いたい内容を適切に相手に伝えることが難しいことがある。
交通事故が原因のびまん性軸索損傷は、弁護士へご相談ください
交通事故を原因としてびまん性軸索損傷を発症した場合、症状固定後に後遺障害が残れば、後遺障害等級認定申請をすることになります。そして、後遺障害等級認定を受けることができれば、後遺障害慰謝料を請求することができます。交渉の際には、相手方保険会社が、自賠責基準や任意保険基準で賠償額を提示することが予想されます。弁護士であれば、弁護士基準による後遺障害慰謝料を請求することによって、適切な賠償額での請求が可能になります。そのため、弁護士に相談することをお勧めします。
そして、びまん性軸索損傷の場合、重度の後遺障害が残ることがあるものの、局所的脳損傷とは異なり患部を特定することが困難であって、他の後遺障害に比べて立証することが困難です。そのため、びまん性軸索損傷であることを立証するためには、立証するために十分な準備活動を行うことが必要になります。
この点、びまん性軸索損傷については、急性期の脳の画像と慢性期の脳の画像を比較して、脳の萎縮が認められるか否か確認することが一つのポイントであり、早期に資料の収集を行う必要性が生じます。医療に詳しい弁護士であれば、早期にMRI検査等の必要な検査を受けるようにアドバイスすることができ、立証するために十分な準備活動を行うことができます。したがって、医療に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。
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保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)