監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士
交通事故に遭い、後遺障害が残る場合がありますが、中には不幸にも後遺障害が複数残ってしまう場合もあります。後遺障害が複数残ってしまった場合、後遺障害が1つの場合よりも重い障害が残ったといえます。そこで、後遺障害を適切に評価するため、後遺障害の認定にあたっては特殊な処理を行います。
本ページでは、その特殊な処理について解説します。
目次
後遺障害が複数残ったら、等級の併合という処理をする
後遺障害が複数残った場合には、等級認定にあたって特殊な処理をすることになります。その特殊な処理のうち、系列を異にする身体障害が2以上ある場合に、重い方の身体障害の等級によるか、又はその重い方の等級を1級ないし、3級を繰り上げて当該複数の障害の等級とすることを「併合」といいます。
併合した場合の慰謝料
労働能力の喪失の程度が高いほど後遺障害慰謝料は高くなります。後遺障害等級は労働能力の喪失の程度によって区分されているため、等級の併合により後遺障害等級が上がれば、後遺障害慰謝料は高くなります。
もっとも、併合前の等級の慰謝料合計額と、併合後の等級の慰謝料額が異なる場合、両者の額を比べより低額な方の慰謝料が支払われます。
併合の基本ルール
併合した場合、等級が上がることになりますが、等級の上がり方は障害の程度により異なります。 1~5級に該当する障害が2以上ある場合は、重い方の障害の該当する等級を3級上げる。6~8級に該当する障害が2以上ある場合は、重い方の障害の該当する等級を2級上げる。9~13級に該当する障害が2以上ある場合は、重い方の障害の該当する等級を1級上げる。
以上が、併合の基本ルールとなります。
併合のルールが変更されるケース
併合後の等級が1級以上の場合
併合して等級が繰り上げられた結果、障害等級が第1級を超える場合はどう処理すべきでしょうか。
障害等級表によれば、第1級以上の障害等級は存在しないので、併合した結果、障害等級が第1級を超えている場合でも第1級より等級が上がることはありません。すなわち、第1級以上の障害等級は用意されていないため、併合第1級として扱われます。
序列を乱す場合
併合して等級が繰り上げられた結果、障害の序列を乱すこととなる場合は、障害の序列にしたがって等級を定めます。具体的には、その等級の直近下位の等級を当該障害の該当する等級として認定することになります。
併合した結果、序列を乱すこととなる場合とは、例えば、上肢を手関節以上で失い(第5級)、かつ、他の上肢をひじ関節以上で失った(第4級)場合です。この場合、併合すると第1級に繰り上がるとも思えます。
しかし、「両上肢をひじ関節以上で失ったもの」という併合後より障害の程度が重いものが第1級とされていることとの均衡を図るため、第1級には繰り上がらず、併合第2級として扱われます。
併合されないもの
後遺障害が複数ある場合には、基本的には併合という処理をすることになりますが、中には併合処理がされない場合もあります。それは、「介護が必要な場合」、「系列が同じ後遺障害の場合」、「組み合わせ等級の場合」などです。以下で詳述します。
介護が必要な場合
もし、交通事故を原因とする後遺障害が「介護を要する後遺障害」と認定された場合、他の障害との併合されることはありません。
なぜならば、「介護を要する後遺障害」の保険金額は、それに当たらない後遺障害の保険金額より高く設定されているため、それに当たらない後遺障害を併合した場合と比べて保険金額が低くなることはないからです。
系列が同じ後遺障害の場合
系列が同じ後遺障害の場合は併合処理がなされません。なぜならば、前述したように、併合は「系列を異にする身体障害が2以上ある場合」に行う処理であり、系列が同じ場合にはその処理は行われないからです。
ここで後遺障害系列表を見てみましょう。後遺障害系列表とは、後遺障害を身体の部位ごとに35系列に分類した表です。
たとえば、右上肢の肘関節の機能に著しい障害を残し(第10級)、かつ、右上肢の肩関節の機能に障害を残した場合(第12級)、これらはいずれも右上肢の機能障害であり、同一系列(系列番号18)の後遺障害になるため、併合処理はなされません。
もっとも、このような場合であっても、併合と「同様」の処理で第9級「相当」と扱われることになります。これを「相当等級」といいます。
組み合わせ等級の場合
系列を異にする身体障害が2以上ある場合でも、その2以上の障害の組み合わせが既に1つの障害等級として定められている場合があります。
それを「組み合わせ等級」といいます。このような場合は、併合の基本ルールに従わずに、組み合わせ等級の等級が認定されます。
具体的には、「両下肢をひざ関節以上で失ったもの」(第1級)は、左右それぞれの下肢につき「1下肢をひざ関節以上で失ったもの」(第4級)を組み合わせた等級なので、「組み合わせ等級」であり、その等級である第1級が認定されます。
後遺障害が複数残ってしまったら
以上で見てきたように、後遺障害等級を認定するには、複雑なルールを理解する必要があります。
また、それぞれの等級の要件の文言はあいまいかつ不明確です。そのため、自分の障害がどの等級に当たるかの判断を自力で行うのは非常に困難です。後遺障害等級の認定に困ったら、経験豊富な弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)