監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士
交通事故後、一定期間にわたり怪我の治療を続けると、これ以上は治療の効果が生じないという状態に至ります。これを症状固定といいます。
しかし、症状固定後も痛み、しびれ、関節の可動域制限等の症状が残存してしまう場合があります。
このような場合に、被害者が適切な損害賠償を受けられるようにするためには、後遺障害等級認定を受けることが必要です。
この記事では、後遺障害等級の具体的な申請方法、認定結果に不服がある場合の対処法などを詳しく解説します。
目次
後遺障害等級認定とは
自動車損害賠償保障法施行令には、後遺障害の等級が具体的に定められています。
例えば、「一上肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの」が第10級10号、「局部に神経症状を残すもの」が第14級9号です。
後遺障害等級が認定されると、その等級に応じて、慰謝料等を受け取ることができます。
後遺障害等級認定の申請方法
後遺障害等級が認定されると、その等級に応じて、慰謝料等を受け取ることができますが、症状固定後に後遺障害等級が自動的に認定されるという仕組みは存在せず、まず申請手続を行わなければなりません。
その申請方法としては、「事前認定」と「被害者請求」という2種類があります。「事前認定」は、加害者側の任意保険会社に申請を委ねるという方法であり、「被害者請求」は被害者自らが申請を行うという方法です。
事前認定(加害者請求)による申請方法
交通事故による負傷の治療が終了して症状固定に至った時点で、後遺障害等級認定申請をすることができるようになります。
そして、事前認定(加害者請求)による場合、医師作成の後遺障害診断書を加害者側の任意保険会社の担当者に提出すれば、同保険会社がその後の申請手続を代行してくれます。
その認定結果が判明するまでには数か月程度の期間を要する可能性がありますので、その間は待たなければなりません。
被害者請求による申請方法
まずは必要書類を集めましょう
被害者請求による場合、被害者自らが必要書類を準備する必要があります。具体的には、事案によって異なりますが、以下のものが代表例です。
支払請求書 | 自賠責保険会社のパンフレットに同封されていることが多いです。 |
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交通事故証明書 | 加害者側の任意保険会社が所持しており、同社に依頼すれば交付されるのが通常です。 |
診断書及び診療報酬明細書 | 加害者側の任意保険会社が一括対応をしている場合、同社が所持しているのが通常です。一括対応がされていない場合、自賠責様式のものを病院で作成してもらうことになります。 |
後遺障害診断書 | 自賠責保険会社又は任意保険会社から、後遺障害診断書の書式をもらった上、主治医に作成を依頼します。 |
事故発生状況説明書、印鑑証明書等 | – |
後遺障害等級認定までの流れ
必要書類を準備した後、加害者側の自賠責保険会社に書類一式を送付します。
その後の流れは、事前認定の場合と同じです。すなわち、自賠責保険会社で受付がなされた後、書類一式は、損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所に送付されます。
そして、自賠責損害調査事務所が必要な調査を行いますが、申請時の書類だけでは不足すると判断した場合、事故当時者への照会や追加資料の提出依頼、医療機関等への照会を行うことがあります。
後遺障害等級認定の結果が判明するまでに、数か月程度かかる可能性があります。
事前認定と被害者請求のメリット・デメリット
事前認定(加害者請求)
事前認定(加害者請求)の最大のメリットは、被害者の負担が少ないという点です。後遺障害診断書さえ主治医に書いてもらえば、その後の手続は加害者側の任意保険会社が代行してくれます。
他方で、事前認定の場合、加害者側の任意保険会社に申請手続を委ねることになるので、不十分な資料しか準備されないという可能性があります。その結果、十分な補充資料があれば適正な後遺障害等級が認定されたはずの事案において、資料不足のために適切な認定がされなくなるかもしれません。
このように、事前認定による場合、適正な後遺障害等級が認定されないかもしれないというデメリットを伴います。
被害者請求
被害者請求を行う場合、被害者自らが必要書類を準備したり、申請書類を作成したりしなければならないという負担が生じます。
他方で、被害者請求による場合、適切な後遺障害等級が認定されるようにするため、事故による衝撃を明らかにするような事故車両の写真やドライブレコーダー映像等の客観的資料を準備したり、治療を担当した医師の意見書や回答書を作成してもらったりするなどの証拠収集・追加を自由に行うことができます。
さらに、弁護士に依頼すれば、これらの必要資料の準備や申請書類の作成などを代行してもらうことができます。被害者請求によって適正な後遺障害等級認定を目指す場合、弁護士への依頼をご検討ください。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
後遺障害認定までにかかる期間
後遺障害等級認定の申請を行うと、自賠責損害調査事務所による調査が実施されることとなり、その調査に要する時間は事案によって異なります。
一般的には、認定結果が判明するまでに少なくとも1か月はかかります。
もし、自賠責損害調査事務所が追加資料の提出を求めたり、医療機関に対する照会を実施したり、そもそも資料が膨大な量だったりした場合、調査に要する時間は長くなり、認定結果が判明するまでに数か月程度かかることもあります。
認定されなかった場合・認定された等級に納得いかなかった場合にできること
後遺障害等級申請の結果について、例えば非該当であったり、予想していたよりも低い等級しか認定されていなかったりすることがあります。そのような場合には、異議申し立ての手続きを行うことができます。異議申し立ての手続きは、追加資料等を提出することで、再度判断してもらう手続きですが、非該当が14級、14級が12級というように、結果が覆ることがあります。最初の認定結果の紙に、認定の理由が記載されていますので、その理由を踏まえ、追加資料を収集し、異議申し立てを行う必要があります。
異議申立てをする方法
後遺障害等級の認定結果に対して不服がある場合、①自賠責保険に対しての異議申立て、②自賠責保険・共済紛争処理機構への紛争処理申請、③民事訴訟の提起が可能です。
まず①が選択されることが多いので、①について解説します。
必要書類と入手方法
自賠責保険に対する異議申立てを行う場合、「異議申立書」という表題の書面を提出することが一般的です。
異議申立書には、認定結果に対する不服の内容や、その根拠等を端的に分かりやすく記載することが必要です。自賠責保険会社は異議申立書の用紙を備え付けていますし、弁護士に依頼した場合は、弁護士が異議申立書を作成します。
さらに、異議申立ての証拠として、例えば医療機関のカルテ、医師の意見書や鑑定書等の資料を追加することができれば望ましいでしょう。
異議申立書の書き方
異議申立てをする場合、最初の認定結果が誤っているということを説得的に説明しなければなりません。
例えば、むち打ちによる首の痛み等の神経症状が残存しているにもかかわらず、後遺障害等級に該当しない(非該当)という判断だった場合、事故による身体への衝撃が大きかったことや、事故直後から一貫して症状が続いていたこと、症状が事故によるものとして医学的に矛盾しないことなどを明らかにすべきです。
そして、その主張の裏付けとなる資料を追加提出することができれば望ましいでしょう。具体例としては、事故に遭った車両の破損状況の写真、ドライブレコーダーの画像、各医療機関のカルテ、主治医の意見書や回答書などが想定されます。
書類に不足や不備があるとやり直しになる
異議申立書に不備があると、補正を求められる可能性が高いです。
また、異議申立書が説得力に欠けていたり、裏付けとなる資料が不足していたりすると、後遺障害等級の認定結果は変わらないと思われます。
この場合、自賠責保険への異議申立てには回数制限がないので、何度でも異議申立てをすることはできます。
ただし、異議申立ての回数を増やすこと自体には意味がない上、時効の問題もありますので、あらかじめ最大限の資料を準備した上で1回目の異議申立てを行う方がよいでしょう。
「異議申立て」成功のポイント
異議申立てによっても、後遺障害等級の認定結果を覆すことは容易ではありません。むしろ、結果が覆らない場合の方が多いのが実情です。
異議申立てを成功させるためには、十分な準備と様々な工夫が必要です。
まず、後遺障害等級認定申請に対する結果の通知書には、その判断に至った理由が記載されています。その記載を手掛かりとして、異議申立てに必要な補充資料を考えることは有用です。
また、目標とする等級が認定されるための要件を調べておくことも望ましいでしょう。自賠責保険の支払基準によると、自賠責の後遺障害等級の認定は、原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行うこととされています。そして、後者は厚生労働省ウェブサイトに種々の資料が公開されており、誰でも容易に検索することができます。
異議申立ての際、ただ漠然と認定結果に対する不満だけを述べても、その認定結果が覆る可能性はほとんどありません。
まずは、目標とする等級が認定されなかった理由を具体的に分析した上、その等級が認定されるために必要な資料を追加するなどして、効果的な主張・立証を行うようにしてください。
後遺障害等級認定・異議申し立ては弁護士にお任せください
後遺障害等級認定申請は、事前認定より被害者請求によることがお勧めです。
そして、弁護士に依頼することによって、必要な資料の準備や申請書類の作成などを全て弁護士に任せることができます。
もし異議申立てをする場合、最初の申請時よりもハードルは高いので、弁護士の助力を得る必要性が更に高いといえるでしょう。
後遺障害等級認定の結果によって、実際に得られる賠償額は大きく変わります。適正な賠償を得るためにも、弁護士にご依頼ください。
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保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)