監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士
交通事故により、頭部に外部から衝撃を受けたことで、脳に後遺障害が生じることがあります。脳の後遺障害の種類としては、高次脳機能障害、四肢の麻痺など身体性機能障害、外傷性てんかん、頭痛、めまい等があります。これらの後遺障害は、脳出血によって生じます。
交通事故に遭い、医師から「外傷性脳出血」と診断された場合に、どのようなことに留意する必要があるかについて述べていきたいと思います。
目次
脳内出血とは
交通事故の被害者は、事故時に頭部を打ちつけているケースが多いです。 頭部に対し、外部から衝撃が加わったことで、脳実質内の出血が生じた場合には、「外傷性脳出血」と診断されます。脳出血が生じた場合には、頭痛や高次脳機能障害、脳脊髄液減少症、手足の麻痺による運動機能障害、複合性局所疼痛症候群(CRPS)等の後遺症が残存する可能性があります。
この点、脳内出血の主要な原因に高血圧があげられることから、高血圧の既往症を有している被害者は、事故によって当該後遺症が生じたものなのかという点で激しく争われることがあります。
脳出血と診断されたら
頭部外傷後の後遺障害については、頭部レントゲンやCT検査、MRI検査、脳波、神経学的検査所見や被害者の日常生活状況などから、障害等級を判断することになります。認定される後遺障害の等級により、慰謝料額や労働能力の喪失による逸失利益が算定されます。
したがって、適切な後遺障害の認定を受けるため、主治医から後遺障害診断書に、後遺障害の認定に必要な診断内容を不足なく書いてもらう必要があります。また、高次脳機能障害の場合には、頭部外傷後の意識障害についての所見や神経系統の障害に関する医学的意見等の調査様式への記載が必要となります。
病院での治療
交通事故により、頭部を強く打った場合には、脳の損傷の有無やその程度、出血の有無等を確認する必要があります。そして、頭部のレントゲンやCT検査、MRI検査等から脳出血が認められる場合には、出血部位や出血量の特定後、意識が清明かどうか等に照らし、外科的治療または内科的治療が行われます。(外科的治療とは、開頭手術等により血腫を除去するものや脳室ドレーンという管を用いて、血種の除去等を行うもので、内科的治療とは、呼吸管理や、輸液、投薬治療等をいいます。)
脳出血の早期診断には直ちに頭部CT検査を行いましょう。
交通事故により脳内出血となったら弁護士へご相談ください
自賠責保険から後遺障害等級の認定を受けるにあたって、適切な等級の認定を受けることは容易ではありません。特に脳出血による後遺障害等級の認定については、高度な医学的知見も必要になります。
また、適切な障害評価を受けるために、適切な検査や医師から診断を受ける必要があります。
たとえば、高次脳機能障害の被害者の場合、特に後遺障害等級5~9級の場合には、外見上、事故前と変わらないことが多く、適切な後遺障害評価がなされないことも少なくない。そして、高次脳機能障害の場合、家族等から日常生活状況報告を記載してもらうことになりますが、その記載方法によっては、適切な障害評価がなされないといったこともあります。
このような点について、弁護士は熟知していますので、弁護士に任せることで、適切な後遺障害等級の認定を受けられます。
交通事故が原因の脳内出血の症状
交通事故の受傷により、脳出血を起こした場合、たとえば、頭痛がする、吐き気がする、物忘れをするようになった、呂律が回らない、手足に痺れがある、思ったように体を動かすことができない等の症状を生じ、出血の部位や出血の程度によっては、意識障害を生じる場合もあります。
特に頭痛を生じていない場合であっても、脳出血が生じている場合もありますので、頭部を打った場合には、すぐに病院で検査をしてもらいましょう。
脳内出血の後遺障害
脳内出血等の頭部外傷による障害は、脳外傷による高次脳機能障害と麻痺などによる身体性機能障害に大別できます。
後遺障害とは|等級認定の申請方法と重要なポイント高次脳機能障害
高次脳機能障害とは、脳血管障害や変性疾患、頭部外傷などにより、記憶障害(思い出せない、覚えられない障害)、注意障害(気が散ってしまう障害)、遂行機能障害(計画的に行動できない障害)、社会的行動障害(人間関係がうまくつくれない障害)、意欲の障害等を生じていることをさします。
請求できる慰謝料等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
別表第1 1級1号 |
1650万円 | 2800万円 |
別表第1 2級1号 |
1203万円 | 2370万円 |
別表第2 3級3号 |
861万円 | 1990万円 |
別表第2 5級2号 |
618万円 | 1400万円 |
別表第2 7級4号 |
419万円 | 1000万円 |
別表第2 9級10号 |
249万円 | 690万円 |
別表第2 12級13号 |
94万円 | 290万円 |
別表第2 14級9号 |
32万円 | 110万円 |
麻痺
麻痺とは、神経系統の機能に障害が生じ、上肢または下肢の運動性や支持性等が失われることをいいます。麻痺の範囲や程度は、身体的所見及びMRI検査やCT検査等による裏付けが必要となります。
請求できる慰謝料等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
別表第1 1級1号 |
1650万円 | 2800万円 |
別表第1 2級1号 |
1203万円 | 2370万円 |
別表第2 3級3号 |
861万円 | 1990万円 |
別表第2 5級2号 |
618万円 | 1400万円 |
別表第2 7級4号 |
419万円 | 1000万円 |
別表第2 9級10号 |
249万円 | 690万円 |
別表第2 12級13号 |
94万円 | 290万円 |
他にも、外傷性てんかん、脳脊髄液減少症や複合性局所疼痛症候群(CRPS)等の後遺障害が生じる可能性があります。
脳脊髄液減少症とは、髄液圧の低下や髄液の漏れ、脳髄液の減少により、頭痛、頸部痛、めまい、耳鳴り、視機能障害、倦怠などさまざまな症状を呈する疾患をいいます。
複合性局所疼痛症候群(CRPS)は、外傷をきっかけとして、痛みや痛覚過敏が遷延する症候群をさし、激しい痛みが長期にわたって続くといった症状を呈します。
交通事故による脳内出血で後遺障害が認められる裁判例
自賠責等級認定において高次脳機能障害の存在が認定されていない場合であっても、改めて、CT・MRI等の画像所見の内容や意識障害の有無、事故前後の変化の有無、事故後に高次脳機能障害に見受けられる症状が出ているか等を検討し、高次脳機能障害が認められた場合もある(名古屋地判平成24年2月24日、東京地判平成24年12月18日)。
高次脳機能障害の認定における裁判例の判断枠組みとしては、①事故直後に意識消失等の意識障害があったかどうか、②事故直後から相当期間経過後までのCTやMRI等の画像所見に異常があったか、③知能検査や記憶検査等の神経心理学的検査結果が基準より低いか、④その他、事故態様や受傷状況、頭部への衝撃の程度等などを総合的に考慮していると考えられます。
交通事故による脳内出血でお困りなら弁護士へご相談ください
事故による脳の損傷が存在するかどうかが明確でないこと場合も少なくありません。特に被害者が既往症を患っている場合には、後遺症が事故によって生じたものなのかという点で激しく争われます。
このような場合には、医学的な部分が主戦場となり、高度な医療の専門的知識が必要となってきます。したがって、医療の分野に強い弁護士であれば、有利に訴訟や交渉を運ぶことができますので、交通事故で脳出血が生じた場合には、医療の専門的知識を有する弁護士に相談されることが望ましいといえます。
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保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)