監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士
交通事故の通院において、担当医からリハビリをするように言われることがあります。リハビリは、医師の診察とは別に行われ、医師ではなく理学療法士等が行うことが一般的です。
医師の診察は2週間に一度くらいしかなく、通院の大半が、診察などもなくリハビリだけとなることも多くみられます。このようなリハビリについても交通事故による損害としての慰謝料が認められるのでしょうか。
目次
リハビリ分の慰謝料を請求したい
結論から言いますと、リハビリについても慰謝料請求は認められます。
慰謝料の中には、①事故によって生じた負傷による肉体的な苦痛や傷害による行動制限、②入院や通院をしたために、入院・通院しなければ自由に使えたであろう時間の喪失、①や②に付随して生じる様々な不利益、といった受傷によって生じたお金で換算できない精神的苦痛を対象として発生するものがあります。これを傷害(入通院)慰謝料といいます。傷害(入通院)慰謝料は、原則として、治療のために必要であった入院・通院期間に基づいて算出されることになります。
リハビリとは、交通事故によって生じた体の不具合を改善し、事故前の状態に戻すことを目的として行われるものであり、怪我の回復を目的とする治療の一環といえるのです。
したがって、リハビリのための通院についても、治療の期間となりますので、傷害(入 通院)慰謝料の算出の対象となります。
症状固定後のリハビリ分は要注意
リハビリも治療の一環であると説明しましたが、症状固定となった後のリハビリは話が異なります。症状固定とは、治療をつづけても、それ以上の症状の改善が望めず、状態が変化しなくなることをいいます。症状固定となった後に、リハビリ等の施術等を受けても症状の改善が認められないことになりますので、交通事故による負傷の改善を目的とする「治療」ということはできなくなります。「治療」ということができなくなるので、治療のために必要であった入通院期間に含まれず、傷害(入通院)慰謝料の算出の対象とならなくなります。
保険会社から、「事故から〇か月たったことですし、そろそろ症状固定の時期ではないでしょうか」などといわれることがあります。これに同意してしまうと、それ以降の治療費も、傷害(入通院)慰謝料も請求できなくなってしまいます。
また、まだ治癒の可能性があるにもかかわらず、保険会社からの症状固定の申し入れに安易に同意してしまったことにより、後遺障害等級の認定が適正に認められなくなる可能性が生じてしまいます。
症状固定については、ご自身の体の具合を十分に把握し、担当医とも入念に話し合いを行いながら慎重に検討しましょう。
治療とリハビリで傷害(入通院)慰謝料に違いはある?
リハビリは、交通事故による怪我によって生じた体の不具合を回復することを目的としたものであり、治療の一環として行われるものです。したがって、治療とリハビリで傷害(入通院)慰謝料に違いが生じることはありません。
リハビリは、医師が直接施術しないから慰謝料が安くなるということもありません。リハビリであろうが医師の診察であろうが同じ治療であり、入院や通院することによって精神的苦痛が生じることに違いはないからです。
リハビリの場合の慰謝料額はどうやって決めるのか
リハビリの慰謝料も傷害(入通院)慰謝料として算出されます。以下でどのように慰謝料が定まるのかをみていきましょう。
3つの慰謝料算定基準
慰謝料の算定基準は、大きく3つあります。3つ目は自賠責基準です。これは、被害者の損害を最低限保障するものであり、3つの基準の中では、1番金額が低くなります。2つ目が任意保険基準です。一般的に自賠責保険で補償することが出来なかった部分に上乗せ補償するものですから、自賠責の基準よりは高いですが、あくまでも支払う保険会社が任意に定めた基準になります。
3つ目が裁判基準です。これは、過去の裁判例等から認められた基準であり、3つの基準の中で最も高額になります。弁護士はこの裁判の基準を用いて相手方と交渉を行います。
通院期間と通院頻度の違い
傷害(入通院)慰謝料は、①事故によって負った怪我による肉体的な苦痛や傷害のために生じた行動制限、②入院や通院をしたことによって、入院や通院をしなければ自由に使えたであろう時間の喪失、①や②に付随して生じる様々な不利益といった、受傷によって生じる、具体的に金銭換算できない精神的苦痛を対象とするものですので、慰謝料を算出する際には、入通院の期間の長さで金額を決めることになります。
ただし、入通院の期間中、通院の頻度や回数があまりにも少ない場合には、慰謝料の額が減額される可能性があります。頻度や回数が少ないと、上記の①や②の精神的な苦痛がそれほどなかったのではないかと考えられるからです。通院が長期間になっても通院日数が少ないと、実際の通院日数を基準として(実通院日数の3.5倍程度)慰謝料が算出されてしまう可能性がありますので、注意しなければなりません。
リハビリの慰謝料は増額できる?
既にお話ししたように、リハビリの慰謝料は、①入通院期間の長さと②通院の頻度・回数によって金額が算出されます。慰謝料を増額するには、この2つの点を意識しなければなりません。
適正な頻度で通院する
一般的に、負傷によって肉体的な苦痛があれば、治療のために通院しようと考えるでしょう。そのため、通院の回数や頻度が少ない場合には、そこまで肉体的な苦痛がないのではないかと判断されてしまいます。また、本来自由に使うことのできた時間を病院の待ち時間や診察・リハビリの時間に使ってしまったという精神的な苦痛についても、通院回数が少なければ少ないほど軽くなると考えられます。通院できなかった正当な理由があるならばともかく、単に煩わしいからといった理由で通院しないと慰謝料は少なくなってしまいます。適切な通院頻度を維持することが重要です。
通院期間の計算方法として、「通院が長期にわたる場合」は実際に通院した日数の3.5倍程度を通院期間の目安とする(むちうち症の場合は、実通院日数の3倍程度を通院期間の目安とする)ものとされています。そのため、通院期間と実通院に数の3から3.5倍の日数を同じくらいにする(慰謝料算出の期間に差が生じなくする)ためには月に10日程度の通院が必要であると考えられます。
弁護士基準での計算がポイント
傷害(入通院)慰謝料算定の3つの基準についてお話ししましたが、最も高い金額となる裁判基準で慰謝料計算することが慰謝料増額の最大のポイントとなります。ご自身で、相手の保険会社と交渉しても、保険会社の担当者は交渉を仕事にしている方々ですので、有利に進めることは難しいです。
また、ご自身で実際に裁判をするのは、かなりハードルが高く、相手の保険会社も本人が交渉相手の場合には、裁判まで行うつもりはないのだろうと考えられて、裁判で認められた基準で慰謝料額の計算をしてくれません。
しかし、弁護士を使って交渉することを決めると、相手の保険会社は、最終的には弁護士を使って裁判を行うことも視野に入れていると考えますので、時間と費用のかかる裁判を避けるために、弁護士との交渉の時点から裁判の基準での話し合いをすることになります。さらに裁判の基準で慰謝料を請求していく交渉においては、個別の事案に応じて、臨機応変に交渉する知識が必要となりますので、経験豊富な弁護士に依頼することをお勧めします。
交通事故慰謝料弁護士基準へ要注意!リハビリの内容で減額の場合も
リハビリといっても内容は様々です。機能回復のための訓練から、マッサージに至るまで、治療のタイミングによって様々なものがあります。ここで注意が必要なのは、慰謝料が認められるリハビリは、交通事故による負傷で生じた体の不具合を回復する目的で行われる「治療」の一環である必要があるということです。治療の一環と認められないリハビリは、慰謝料が認めらません。怪我の回復を目的とせず、単に体が楽になるからといってマッサージをしてもらったとしても、治療と認められない可能性があります。
また、医師が診断した傷病名と関係のない部分をリハビリしても、治療といえませんから、そのために通院しても慰謝料が認められないこともあります。
リハビリ分の慰謝料請求は弁護士へ依頼しましょう
リハビリ分の慰謝料を獲得するためには、入通院の期間と通院頻度が重要であること、さらに裁判基準での金額の算定を行うことがポイントとなることをお話しさせていただきました。
以上のことを十分に踏まえたうえで、適正な慰謝料を獲得するために、是非とも交通事故について経験豊富な弁護士にご相談をいただきたいと思います。
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保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)
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